
年末年始に帰省した際、
「実家について、そろそろ考えなきゃな。」
と思うことがあります。
小学校卒業後に離婚し、女手一人で僕と姉二人を育ててくれた母は、
いまは孫の世話に慌ただしくしており、
まだまだ健在ではありますが、高齢に差し掛かっているのも事実です。
皆さまは、
そして皆さまの親御さまは、
ご自宅や財産について、
ご家族と話をされたことがあるでしょうか?
話しにくいという方もいれば、
何でも話ができる関係という方もいて、
ご家庭ごとに事情はさまざまだと思います。
ただ、相続の実務を学ぶ中で、
揉めるかどうかと、家族仲の良し悪しは、
必ずしも比例しないと感じることがあります。
「家族仲が良い=相続で揉めない」はちょっと違う?

これは、過去に不動産売却の現場で実際にあった事例です。
(※内容は個人が特定されないよう整理しています)
お母さまが亡くなり、
相続人は姉と弟の二人。
生前は大きなトラブルもなく、
お母さまも
「実家は長男にまかせるつもり」
というようなことを、
日ごろからご姉弟に話していたそうです。
家族関係は、比較的円満でした。
ところが、相続が始まった途端——
使い道もないため売却したい。
しかし、そもそもこの家は誰が相続するのか。
誰が決められるのか。
この点で姉弟間の話し合いが進まず、
結果として、
実家は使われないまま空き家となり、
何年も動かない状態になってしまいました。
このようなケースは、
決して珍しくありません。
多くの場合、
これは「揉めている」というより、
決め方が決まっていないだけです。
そして、
こうした話し合いを重ねるうちに精神的ストレスが溜まり、
時間の経過とともに、
それまで円満だった姉弟の間に
少しずつ不穏な空気が流れ始める——
間に入り支えてこられた親御様がいなくなることで、
個々様々な心理的背景から険悪な仲になってしまうことは少なくないようです。
では、どうすれば良かったのか?

こういう時に役立つのが「遺言を残す」という選択です。
遺言と聞くと、どのようなイメージがあるでしょうか?
資産家がばく大な資産を残すために行う、厳格でなんだか大変そうな手続き
相続トラブルの引き金になるもの
テレビドラマ等の影響も大きく、死を連想させるワードだからこそ、
ネガティブなイメージがあるかとも思います。
しかしながら、
2010年代より「終活」という言葉もすっかり浸透してきているように、
心身が元気なうちに遺言を遺しておくという方も多くいらっしゃいます。
実は、遺言は15歳から遺すことができます。
民法 第961条(遺言能力)
十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
遺言に対する3つの誤解
①我が家は仲が良いので遺言は不要
前述したように、仲が良い=自分の死後に家族が相続で揉めることはない
というわけではなさそうですが、
確かにそう考えるのは、人としてごく自然なことだと思います。
しかし、相続実務においては、
”仲が良いからこそ、
今後も円満な家族関係を続けられるように、
煩雑な手続きや話し合いで家族が争うことがないように
遺言を遺しておく”ことをおすすめします。
②遺言は一度書いたら取り消せないのでは?
遺言について、よくある誤解の一つです。
民法では、遺言はいつでも撤回できると定めています。
民法 第1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。つまり、何度でも好きなときに撤回できるし、
何度作っても大丈夫です。
前に作ったものと内容が違ってもOK。
遺言の内容は、自分の意思で原則自由に決めることができます。
遺言は、今の考えを仮置きするものくらいに考えても、
法律上は問題ありません。
ちなみに、遺言が効果を発揮するのは、
遺言した人の死亡した時です。
遺言を書いたらからと言って、
ただちに自分の財産に手を出すことができなくなるわけではありませんのでご安心ください。
民法 第985条(遺言の効力の発生時期)
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
③少額の財産を残すのにも、遺言は必要?
少額の価値の財産だとしても、遺言は遺したほうがいいと思います。
理由としては、下記の画像を基に説明します。


出典:裁判所HP 統計・資料集(https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/index.html)
令和6年 司法統計年報 3家事編(最高裁判所事務総局)
第52表 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く)―資産の内容別遺産の価値別―全家庭裁判所
これは、令和6年に全国の裁判所が取り扱った、
遺産分割についての統計表のスクリーンショット画像です。
調停成立件数。
つまり、相続の発生後、家族間での話し合い(協議)がまとまらず、
調停まで進んでしまった件数をあらわしています。
一番多い遺産価格は5,000万円以下ですが、次いで多いのは1,000万円以下です。
総数7,903件に対し、約35%もの割合を占めています。
これは令和6年に限らず、それ以前の統計も見てみると、
例年大体30%以上を占めているようです。
また、現金に次いで、
土地・建物についての争いも多いことがわかります。
少額だったとしても、のこされた家族にとっては大切な遺産です。
金額よりも、判断基準があるかどうか・・・
これが、相続の行方を大きく左右します。
相続が”争族”とならないよう、遺言は残しておきたいところです。
公正証書遺言と遺留分

遺言は、便箋やノートでの自筆による他、
公正証書ですることもできます。
費用はかかりますが、
公正証書遺言には、
無効になりにくく、
内容が明確で、手続きが進めやすい
というようなメリットがあります。
ただし、公正証書遺言であっても、遺留分(いりゅうぶん)の話が出ることはあります。
これは遺言の形式の問題ではなく、
民法で定められた相続人の権利の問題だからです。
遺留分(いりゅうぶん)とは、
兄弟姉妹以外の相続人に、最低限保証される遺産の取り分のことです。
たとえば夫婦と2人の子供のあわせて4人家族を想定し、
ご主人が「全財産を長女に相続させる」といった遺言をのこしたら・・・
奥さんや下の子どもの生活の保障はどうすればいいでしょうか?
そんな時、「最低限これだけはもらえるよね?」
という主張ができる権利です。
遺留分侵害額請求という言い方をします。
遺言は原則自由と前述しましたが、
不公平な分け方すべてにOKを出してしまったら、
他の遺族の生活保障という点とバランスが取れなくなってしまうため、
このような制度があります。
そのため、
自筆の遺言でも、公正証書の遺言でも、
内容によっては、
遺留分について話題になる可能性はあります。
遺言がある場合と、ない場合の決定的な違い
ここで誤解してほしくないのは、
これは「遺言がダメ」という話ではない、という点です。
遺言がある場合と、ない場合の決定的な違い・・・
ここが、一番伝えたいところです。
遺言は「争いをゼロにする魔法」ではありません。
でも「争いを小さくする道具」にはなります。
公正証書遺言でも、遺留分侵害請求は起き得る。
ただし、遺言がなければ、争点はもっと増える。
これは、間違いない事実です。
遺言がない場合、
何をどう分けるのか
誰が決めるのか
全員の同意が必要か
すべてを一から話し合う必要があります。
一方、遺言があれば、
書かれた内容を前提に、話を整理して進めることができる。
この差は、とても大きいはずです。
行政書士としてできること

行政書士は、
相談者様のお話をじっくり聞き、
トラブルになりやすいポイントに気を配りつつ、
遺言書の文案の作成を行います。
必要に応じて、相続関係説明図や財産目録も作成します。
実際に相続人同士の主張が対立した場合や、
具体的な請求・交渉が必要になる場面では、
弁護士の関与が必要になることもあります。
だからこそ、
争いが表に出る前の段階で、遺言という形を残す意味があります。
遺言の目的を、少しだけ現実的に考える
遺言は、
ご家族を縛るものでも、
覚悟を迫るものでもありません。
相続を、止めないための道具です。
「うちは大丈夫」と思っている今だからこそ、
遺言がある場合と、ない場合の違いだけは、
一度知っておいてもらえたらと思います。
